| アンコール・トムの前の、食堂でのことだった。 食堂と言っても、簡易な机とイスを並べた青空の見えるオープンな店で、奥に小さな調理場がある。 アンコールの遺跡群の要所要所には、観光客用の休憩所が設けられ、売店以外にもフリーの土産物売りがたくさんいる。 10才くらいのカンボディアンの少女が、私たちのところにやって来た。 どこかで仕入れてきた商品をテーブル上に並べたかと思うと、英語で商売を始めた。スラスラと日本の中学生レベルの文法や単語を使う。 『これは、コットンとシルクミックスのクロマー(スカーフ)よ。色は赤と緑、黄色と紫色・・・』 うんうん、と彼女のプレゼンテーションを聞いていると、 『もし、籠とクロマー2枚をセットで買ってくれたら、この小さいのはオマケであげる』と、なかなかの商売上手だ。 注文していた軽食が来ると、商品をさっと片付けて、私たちが食事をする間はどこかで待っているみたいだった。 みんなが食べ終わるのを見計らって、戻って来てさっきの続きを始めた。 別に無理矢理押し付けるわけでもなく、いらないならいらないでかまわない潔い売り方だった。 この辺では経済的に困窮して、学校に行かずに親の手伝いをさせられる子供たちは多い。 この女の子は幼いながら、繰り返される日々のうちに、すでに商売というものをしっかりと自分のモノにしていた。 仕入れた品に利をつけて売り値を決め、それをほしい人に買ってもらうのが『商売』である。 商品には薄利で大量生産されている品物もあれば、ギョっとする値段のアンティークグッズもある。 売り手と買い手は、同等の立場である。と、私は考える。売り手は商品を取り揃える能力があり、買い手はその商品代金を支払える能力がある。 両者の折り合いがつくところが、その商品の適正価格というところか。 お金がほしいが為にぼったくったりウソをついたりする輩にも出会うが、それは「商売人」ではなく「詐欺師」で、自尊心のある商売人なら客を大切にするし、気持ちのよいサービスをしてまた自分の店に来てもらいたいと思うだろう。 あの少女のことは忘れない。 |